「・・・・・・・・・・ックシュ」
最近、冬らしく寒さが一段と強くなった。
その影響だろうか、くしゃみがやたらと出る。
そんなことを考えながら部室を出た矢先、外気と室内の温度差にブルリと体が震えた。
「・・・・・・・ヒッ、クシッ!」
「おやおや、珍妙なくしゃみで。…大丈夫なん?」
「・・・・・・・・お、忍足先輩!」
クスクスと笑われ、体温が一気に上昇した。
忍足先輩は穏やかな笑みを浮かべ、私を見つめている。
どうやら先輩は後輩である私を妹のように思っているらしく、可愛がってくれる。
忍足先輩に憧憬の念しか抱いていなかった頃は嬉しかったけれど、その憧憬が恋慕に変化してしまった今となっては正直複雑だ。
・・・・・・・・・何にせよ、好きな人にくしゃみの瞬間を見られるだなんて。最悪だ。
「急にグッと寒なったもんなぁ。動いてんと敵わんわ、俺も」
半ズボンのポケットに手を突っ込みながら肩をいからせてみせる。いかにも寒そうな仕草だ。
「・・・・・・・・・・半袖ポロシャツに半ズボン姿の人に言われても説得力ないです」
先輩が腕にかけて持っている長袖ジャージを指差しながら言うと、
「ちゃんと「動いてへんと敵わん」言うたやん」
ヒラヒラと手を振りながら軽口を叩く。
「ついさっきまで練習試合しとってん。相手がジローやったから走らされて暑ぅなってもうた」
その内すぐ寒なるからジャージ持っとんねん、と笑う。
確かに芥川先輩が相手だったのなら、ボレーに振り回されてコートを縦横かつ右往左往しなければならなかっただろう。
「・・・・・・・・そうでしたか」
納得した、という旨をしっかり言葉で伝える。
では、と呟きコートに向かおうと先輩の横を通り過ぎる。
「今は滝と鳳、宍戸と樺地がやってんで」
「――――何でついて来てるんですか?」
「何や、嫌なん?」
「否、そういう問題ではなく…部室に用があったんじゃないんですか?」
わざわざ部室の方まで来ておきながら、私と話しただけでコートへとUターンする先輩の行動は、解せない。
「部員が寒空の下頑張っとるっちゅーんに部室でヌクヌクしとる不良マネージャーを呼びに来てん」
「・・・・・・・・・・・それ、私の事ですか?」
「お前以外におらんやろ」
「失礼ですね。サボッてた訳じゃないです!部長が…」
「解っとるって、そないムキにならんでもえぇ」
「・・・・・・・・・・・・。」
頭をワシャワシャ撫でられる。完璧なまでの子ども扱い。
「可愛ぇなあ、ホンマに」
妹みたいで、という意味で。
それが解っていても嬉しく思ってしまう私はどうすればいいのだろう。
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畜生、惚れた者負けだ。
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