感じ悪い。・・・・・・・・・ていうか、それより怖い。
うん、ものすごく怖い。どうすればこの状況から開放されるのか。
声には出さずにうんうん唸りつつ、頭を悩ませる。
結論はとうに出ているのだけれど、それを実行する勇気がない。
緊張及びこう着状態が長すぎて、脳味噌が麻痺してきている気がする。
何だかもう、「なるようになれ」と思ったり。
うん、まぁ、そうだ。えぇい、「まま」よ!
「・・・・・・・・き、切原くん?」
「あ゛?」
おおぅ、怖い。
話しかけられたのが予想外だったらしい。しばらく間をおいてから「・・・・・・んだよ」と続けた。
「今日、部活なんでしょ?あとは私がやっておくから行っていいよ」
おし、言い切った!頑張った自分!!
自分で自分を抱きしめつつ、思いっ切り褒めてあげたい衝動に駆られる。
数分前まで躊躇しっぱなしだったものの、言ってしまうと何と言うことはない。
うん、言えてよかった。
暫く感動の余韻をジーンと味わっていたが、切原くんの反応がないことにハタと気付く。
私の予想では、「え、マジ!?サンキュー!」とさっさとトンズラするはずなのに。
「き、り・・・はらくん・・・・・・・?」
訝しげに、恐る恐る名前を呼ぶ。
勇気を出して彼の顔にそらしていた視線をやると、驚いたことに彼は笑っていた。
それも、苦笑していたのだ。
「俺が、さ」
そう言うと、唐突に話し始める。
「今日日直だって、真田副部長知ってんだよ」
「はぁ・・・・・・・・」
「だから、お前の好意に甘える訳にはいかねーの。「たるんどる!」って殴られんのは目に見えてるしな」
ほらよ、と日誌を私に渡す。
「感想欄だけ書いといたから、あとシクヨロ☆」
ご丁寧に、ポーズ付きだった。ピースサインを横向きで目元にくっつけている。
「・・・・・・・・はぁ」
「あー、やっぱ「シクヨロ☆」なんて俺のキャラじゃねぇな。―――――丸井先輩、よっくこんな一発ギャグ使うよなぁ。ギャグだかどうだか知んねぇけどさ」
丸井先輩って誰だったっけ、真田先輩と幸村先輩以外はイマイチよく解らない・・・・・・・。
ぼんやりそう思いながら、日誌に目を落す。
宣言通り、感想欄しか埋まっていない。
―――――――――――――・・・・ん?
『女子の調理実習のカップケーキもらえたのはラッキーだったけど、誕生日なのに日直なんてツイてないと思った。切原』
判読しにくい文字だったが、確かにそう書いてある。
「・・・・・切原くん、今日誕生日だったんだ」
「おう」
「おめでとう」
誕生日を祝う言葉。
お愛想で言ったようなものだから、大して気持ちはこもっていなかった。
けれど、
「――――――――――――・・・・サンキュ」
小さくはにかんだ彼の笑顔に、トクンと胸が高鳴った。
・・・・・・・・・・・なんだ、コレは。
切原赤也なんて、怖いだけのクラスメートだったじゃない。
違う、違う。
私が好きなのは、幸村先輩みたいな優しげな―――――――。
「俺、黒板消しクリーナーにかけてカーテン閉めてくっから、お前日誌書いといて」
ガタンと大きな音を響かせて椅子から立ち上がる。
嬉しそうな顔。――――――――さっきの私の言葉で?
胸の高鳴りが止まらない。
これは、恋なのか否か。突然すぎて、解らないけれど、でも、確かに。
確かに私は、切原赤也を初めて「好きだ」と思った。
Happy Birthday!!!
“Please accept
this short story type-five as token of appreciation.”
closed.
恋が始まる、かもしれない。
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